2021/02/16

映画鑑賞日記

  「なぜ君は総理大臣になれないのか」「はりぼて」という2作の政治ドキュメンタリー映画を連続で見た。 前者は香川1区の野党議員、小川淳也が2017年の衆議院選挙に臨む姿を主に描いた作品であり、後者は、富山県のテレビ局、チューリップテレビが富山市議会の政務活動費不正を追及する様を描いた作品である。 国政と市議会、ステージは異なるもののスクリーンに映し出されるのはどちらも地方の政治風景だ。 この2作の中に、私は地方メディアの存在感を見た。

 「なぜ君〜」では作品の主役たる小川淳也議員が、地元紙四国新聞による自身への批判的な紙面に憤りを感じるシーンがある。 四国新聞は県内シェア60%を誇り、ラジオ・テレビ兼営局の西日本放送もグループに持つ。 そして、小川議員と議席を争う自民党平井卓也議員は四国新聞オーナー一族の1人であり、四国新聞社長は平井議員の弟である。 2017年の野党再編の中で、小川議員が発した言動に対する紙面上での批判は親類縁者の選挙戦を有利にするためである……と言い切ることは当然できないが、小川議員にとって大きな影響を与えうるのは確かであろう。 「はりぼて」では富山県にある3つの民放テレビ局のうち一番新しい平成2年開局で、社員数も100人に満たない小さいテレビ局であるチューリップテレビが、富山市議会議員の政務調査費不正を暴く様が描かれる。 テレビ局の追及を受けうろたえる議員の姿の滑稽さなどの見所については、すでに多くの評で語られているので割愛するが、私は歴史の浅いチューリップテレビが丹念な取材報道で数千万円に及ぶ不正を発見したことに感嘆した。 だがそれと同時に、派手な話題とは言い難い市議会議員の不正を夕方のニュースで流して視聴者の関心を惹くことができるのだろうか、県内のグルメ情報の方が営業的に良いのではないかなどとも考えていた。 その不安は映画のエンディングで、取材していた記者2人のうち1人が報道の現場から外され、もう1人は退社するという形で眼前に現れてくる。 2人が報道から離れることとなった直接の理由は映画内では直接描かれず、私が知ることはできない。 しかし、個人的には東海テレビ報道部が東海テレビ報道部自身を取材対象にとった映画「さよならテレビ」での、0.1%単位の視聴率の勝ち負けに一喜一憂するスタッフたちや、視聴率不振でキャスターを降ろされるアナウンサーの姿を連想させられた。

  四国新聞は選挙の当事者がオーナー一族の1人でありその中立性を読者が信頼しにくい※がかといって対抗する県域紙が他になく、チューリップテレビも映画の不穏なエンディングから同じような報道の力を期待することはしばらく難しいだろうと思わせられ、それぞれの限界も感じた。だが、片や報道によって衆議院議員候補に強い危機感を与え、片や報道によって市議会議員が次々と謝罪や議員辞職に追い込まれる、そんな地方メディアの強さをこの2作からは印象付けられた。 

 翻って私が住む南関東はどうだろうか。 県域紙も独立テレビ局も存在感は大きくなく(東京都のみをエリアとする一般紙はそもそも存在しない)在京全国メディアは足元の報道にあまり力を入れられていないように思える。 私がこのような問題意識を持ったのは論座の記事で、千代田区長が不正な手段を使って区内の高級マンションを購入したのではないかというニュースの扱いがあまりに小さいという指摘を見たのがきっかけだが、実際に私の配偶者に尋ねたところこのニュースを知らなかった。 人口7万の自分の住んでいない区の話だから知らなくていいのか、より強い地元のメディアが必要なのではないか、しかしそれはどんな形なら成立し得るのか、スーパークレイジー君的な存在がいないとダメなのか? そんなことを考える映画体験だった。

 ※もちろんオーナー一族であっても被選挙権の行使は自由であるべきであり、また今作の例で言えば民進党から希望の党へ移ったことを批判する意見を掲載することがただちに中立性を欠くともいえないが